オルソケラトロジーの定義とは
オルソケラトロジーは、特殊なハード・コンタクトレンズを夜寝ている間に装用することで、日中は視力が回復し裸眼で過ごせるようになる新しい近視矯正法です。レーシック手術とは異なり、オルソケラトロジーによる矯正効果は可逆的です。
そのため、装用を中止すれば、数週間で元の近視の状態に戻ります。コンタクトレンズ装用による不快感、不便さの解消が期待されます。
オルソケラトロジーのガイドラインはこちら(PDFファイル)
オルソケラトロジーは、2002年に米国FDAにより医療用具として承認を受け、その後世界各国に普及しています。日本では、2009年4月に厚生労働省により、その効果と安全性における有用性が評価され承認を受けました。
当院では2001年3月、日本で最も早い時期より、オルソケラトロジーの処方を行って参りました。
吉野院長はオルソケラトロジーの治験においてメディカルアドバイザーや、日本コンタクトレンズ学会のオルソケラトロジーレンズ臨床試験施設委員会委員長を兼務し、日本眼科学会、日本コンタクトレンズ学会発布のガイドラインを作成するなど、オルソケラトロジーの効果と安全性を正しく評価する立場から、オルソケラトロジーの正しい普及に取り組んでいます。
オルソケラトロジー講習会受講証
睡眠中に視力回復治療 眼科領域で最先端の技術を提供
毎年暮れになるとテレビで映し出される東京・上野の“アメヤ横丁”。そのすぐ近く、上野広小路に建つビルの6階にあるのが「吉野眼科クリニック」だ。
院長の吉野健一医師は、およそ20年前、当時の日本ではまだ認知されていなかった「ドライアイ」を米国で学び、その病態を日本に伝えたチームの一人。帰国後に開業してからも大学の研究室に籍を置き、最先端の知識と技術を臨床の場で提供し続けてきた。
現在もドライアイの診断と治療を柱に、白内障やレーシック手術など、眼科領域の中でも特に高い専門性が求められる診療に力を入れる。
吉野医師が今、熱心に取り組んでいるのが「オルソケラトロジー」という治療法。
「睡眠中に専用のコンタクトレンズを装着することで、角膜のカーブを変え、視力を矯正する治療法です。アメリカで開発され、2009年に日本でも厚生労働省の認可が下りました。海外では、特に小児の近視進行抑制効果が認められていて、日本でも今後、眼科治療の一つの柱になる可能性があります」
レーシックや、このオルソケラトロジーもそうだが、吉野医師には先駆者ならではの悩みもあるという。
「新しい技術が注目されると、不勉強な医師が手を出して事故を起こす。これが一番つらいところ」と苦笑いする。その苦悩があるからこそ、患者がその治療を求めて来ても、適応から外れる時には毅然と断り、その患者にとって最適の治療法を考えていく姿勢だけは絶対に崩さない。
屈託のない笑顔で話す姿は、深い信頼感を醸成する。高い技術力だけでない、人間としての魅力が患者はもちろん、同業者の信頼をも得るのだ。 (長田昭二)
オルソケラトロジー屈折矯正のメカニズム
オルソケラトロジーは特殊なハードコンタクトレンズを使用するのですが、通常のコンタクトレンズと違い夜寝ている間だけレンズを装用します。 そのレンズは内側に特殊なデザインが施されており(図1)、レンズ下涙液の圧の変化により角膜形状を変化させることで、一時的に近視・乱視を軽減します。(図2、図3) 酸素透過性の高い素材を使用しているので、劣化や汚染が無ければ、寝ている間にコンタクトレンズを装用することで起こりうる酸素不足の心配はありません。
- 【図1】
- 【図2】
【図3】
オルソケラトロジー(Orthokeratology)の歴史
眼鏡やコンタクトレンズなしで、裸眼で遠くを見たい、という人類の夢とともに発展してきた屈折矯正法には、PRK、LASIK、フェイキックIOLといった屈折矯正手術があります。 しかし、これらの治療は、不可逆的です。
一方、オルソケラトロジーとは、近視や乱視を一時的に除去、または軽減するもので、装用を中止すれば一定期間を経て元の見え方に戻ります。
これを「不便」と感じるかは「安心」と感じるかは、各自の考え方に寄るところです。
オルソKの歴史は古く、1960年代に「Orthofocus」という名称で第一世代のオルソケラトロジーレンズが米国で登場しました。しかし、レンズセンタリングの不具合もあり、実用には至りませんでした。以後、オルソケラトロジーレンズの開発が進み、第二世代のレンズを経て、1990年代には第三世代のオルソKレンズが登場しまいた。
第三世代のレンズは、目標視力達成期間が大幅に短縮でき、また視力の安定性も高いことから、米国を中心に、カナダ、オランダ、ドイツ、フランス、スイス、韓国、中国、台湾などで普及するようになりました。
また、日本では2009年4月に厚生労働省による承認をえたこともあり、今後一段と普及していくことが考えられます。
当院で取り扱うオルソケラトロジーレンズ
αオルソ-K®
「αオルソ-K」は日本で初めて認可を受けたオルソケラトロジー用レンズです。国内で1年間にわたり実施された臨床試験によって、その効果と安全性が評価され、2009年4月に日本で初めて新医療機器としての認可を取得した国産のオルソケラトロジーレンズです。
マイエメラルド™
国内初のFDAと厚生労働省で承認されたオルソケラトロジーレンズです。 長年にわたる世界中での実績と優れたレンズセンタリングを持ちます。レンズの材質は高酸素透過性材質の世界的な代表製品:Boston®シリーズを採用されてます。 院長、吉野は、日本医科大学、東京医科大学で行われた、本「マイエメラルド™」の臨床治験にメディカルアドバイザーとして参加致しました。
ブレスオーコレクト©
日本人の眼に合わせた、独自の設計、割れにくく酸素透過率の高い東レ素材を採用した、設計から素材・生産まで、唯一の純国産レンズです。
オルソケラトロジーの適用や効果などについて
どのような人に適していますか。
- 日中の眼鏡やコンタクトレンズの煩わしさから解放されたい方で、近視の度数が中等度以下の方。
- ドライアイでコンタクトレンズができない方。
- 職業上メガネでは不便な方。スポーツを裸眼で楽しみたい方。
- コンタクトレンズを使用していると違和感が生じたり、目が乾く感じがする方。
- レーシックなどの手術に抵抗がある方。
オルソケラトロジーによる近視進行抑制効果(myopia control)
学童に対するオルソケラトロジー処方について
オルソケラトロジーには、近視の進行を抑制する効果があるという理由から、諸外国ではオルソケラトロジーは大人だけでなく子供にも処方されています。 近年、この近視抑制効果の医学的根拠が次々と発表され(図4、図5)、また、子供の近視の進行を止めたいという親心も手伝って、ますます学童への本レンズの処方が注目されつつあります。しかし、視機能の発達が未完成な10歳以下の子供に対して安易にオルソケラトロジーを行う事は危険を伴うという事を十分にご理解下さい。詳細なレンズケア、保護者の十分な管理の必要性、子供に十分な自覚をもたせることの必要性、定期検査の必要性、等を十分に指導してくれる眼科専門医による処方を受けてください。
2018年2月、日本では、臨床データの蓄積とその良好な結果により、年齢に関する適応の変更がなされました。現時点でのコンタクトレンズ学会オルソケラトロジーガイドラインにおける適応年齢は、原則20歳以上は堅持しつつも、未成年へは慎重処方と改定されました。
- 【図4】
- 【図5】
図5 【解説】眼鏡、コンタクトレンズによる矯正と異なり、オルソケラトロジーによる矯正では、傍黄斑部での焦点が眼球内部に位置することで(近視状態)眼球の長さ(眼軸長)の伸展が抑制されるという理論
装用時の使用感について
ハードコンタクトレンズの使用経験がない方は、始め違和感を感じることがあります。しかし、睡眠中の装用であることもあり、ほとんどの場合は慣れて気にならなくなります。 実際の装用感は、テスト装用により体感することができます。
装用を始めてからの効果
近視が軽度の方は、装用から1〜3日程度で視力が向上したという実感が得られます。 通常は、2週間程度の使用で目標の視力に到達し、日中裸眼で過ごせるようになります。また、装用を中止すれば、数週間で元の近視の状態に戻ります。 個人差はありますが、起きている間、また場合によっては24時間〜36時間程度効果が持続します。 しかし、いかなる処方変更を行っても目的裸眼視力を達成できないケースも存在します。使い始めの視力が安定しない時期は、使い捨てレンズをお使いいただくことにより日常生活が可能です。
レンズ装用の頻度について
通常、オルソケラトロジーの効果は起きている間中です。 就寝前にレンズをつけて、朝起きたら外します。目標は朝起きてから寝るまでの間、眼鏡やコンタクトレンズなしで一日を過ごせることです。 ですので、大部分の患者さんは、毎日夜寝る前にレンズを付ける必要があります。尚、非常に弱い近視の方の中には、1日おきにレンズを付けることで近視の軽減(正視化)が可能となる場合があります。
合併症や副作用について
通常、レンズの管理方法を正しく守り、定期的な検査を受けていれば、大きな合併症を起こすことはありません。しかし、杜撰なケアや使用方法により「角膜感染症」という重篤な合併症を起こす可能性があります。角膜感染症の二大起縁菌は、「緑膿菌」と「アカントアメーバ」です。特に後者に有効な洗浄、消毒、保存液は、ポピドンヨードを用いた「バイオクレンO2セプト(オフテクス社製)」のみです。当院では、本ケア用品の使用を強くお勧めしています。 一方、暗所での瞳孔径が大きい方は、夜間に光が滲んで見えるハロ・グレアを生じる場合がありますので、実際の処方を受ける前に、十分に適応を検討することが大切です。
コンタクトレンズを着けたままで就寝することについて(コンタクトレンズを着けたままで眠ることは、危険ではないのですか?)
ハードコンタクトは酸素透過性が非常に高いものであれば連続装用(寝ている時も付ける)が可能とされています。 オルソケラトロジー用のレンズ素材は,連続装用が可能な高酸素透過性を有していますが、長期的な評価はまだ明らかにされていない部分もあります。しかし、酸素不足の裏づけとなる角膜内皮細胞数の減少は、臨床治験にてもみられませんでしたし(図6)、これを報告した論文も現在のところありません。
レンズの寿命について
オルソケラトロジーレンズの寿命は1〜2年です。 レンズ表面に細かい傷が生じたり、素材が劣化して酸素を通しにくくなりますので、少なくとも2年を超えたら新しいレンズと交換する必要があります。
その他よく頂く御質問
どの様な人が使用できますか?
基本的には,中等度(-4D)までの近視が適応範囲となります。
小学生に対するオルソケラトロジー処方について
オルソケラトロジーによる近視の進行を抑制する効果については、近年、信頼性(エビデンスレベル)の高い医学論文が続々と報告され、オルソケラトロジーによる近視進行抑制効果は存在するものと考えられます。結果、子供の近視の進行を止めたいという親心も手伝って、従来から諸外国(特に東アジアの国々)ではOrtho-Kは大人よりもむしろ子供に盛んに処方されています。 しかし、日本で行われた臨床試験では、近視進行抑制効果を確認するのスタディは行われていなかったため、公にこの効果を謳うことは控えられています。オルソケラトロジーの意義への理解やレンズケアに未熟な10歳以下の子供に対して安易にオルソケラトロジーを行う事は危険を伴うという事も事実ですので、子供への処方は、本人の成熟度と保護者の十分な協力が重要なポイントとなります。
現在日本では、市販後調査データの蓄積と良好な結果により、旧ガイドラインの「オルソKの適応年齢は20歳以上とする」とした内容は、「未成年には「慎重処方」とする」といった内容に改定されました。当院では、その動きに準じ、医師の裁量のもと20歳未満の方へは慎重処方としています。
いつ、レンズを着けるのですか?
眠る前にレンズを着け,朝起きたら外します。目標は朝起きてから寝るまでの間、眼鏡やコンタクトレンズなしで,一日を過ごせることです。
近視軽減効果はどれくらい続きますか?
個人差はありますが,起きている間、また場合によっては24時間~36時間程度効果が持続します。
どれくらいの頻度でレンズを付ける必要がありますか?
大部分の患者は、毎日夜寝る前にレンズを付ける必要があります。 中には一日おきにレンズを付けることで近視の軽減(正視化)が可能です。
レンズの寿命は,どれくらいですか?
だいたい1~2年ぐらいです。
視力は突然元に戻ってしまうのですか?
就寝時のレンズ装用を中止した場合,徐々に元の近視に戻っていきます。最終的に元の角膜カーブに戻るのは2週間~1ヶ月程度です。
初めてレンズを着けてから,どのくらいで効果が現れて来ますか?
近視度数の軽減は,次の日から現れ,1週間~2週間で目標の視力に到達します。しかし、いかなる処方変更を行っても目的裸眼視力を達成できないケースも存在します。 使い始めの視力が安定しない時期は,使い捨てレンズをお使いいただくことにより日常生活が可能です。
どの様な手順で処方が行われるのですか?
はじめにオルソケラトロジーが適応となるかどうかの検査が必要です。近視の度数,眼病の有無,角膜の状態,涙液の検査等で問題が無ければ,その場でトライアルレンズを装用します。角膜形状に合ったテストレンズを選んだ後,一時間トライアル装用を行い評価します。